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教科書が足りない国で、子どもたちはどう学んでいるのか

教科書が足りない国で、子どもたちはどう学んでいるのか
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フィリピンの初等教育が深刻な危機に直面しています。国連児童基金(UNICEF)などが実施した「東南アジア初等教育学力指標(SEA-PLM)2024年報告書」によれば、フィリピンの小学校5年生の42%が国語の教科書を他の児童と共有している実態が明らかになりました。教科書不足は学習環境に大きな影響を及ぼし、「学ぶことが当たり前ではない」この国の現状を浮き彫りにしています。

本記事では、この報告書が示す教科書不足の実態と、それにとどまらないフィリピン教育の諸問題について概観します。また、NPO法人DAREDEMO HEROの取り組みを紹介し、教育支援の重要性について考えます。

教科書を「分け合う」ことが当たり前になっている教室

2024年、UNICEFと東南アジア教育機関が共同で実施したSoutheast Asia Primary Learning Metrics(SEA-PLM)2024の報告によると、フィリピンでは小学5年生の半数以上が自分専用の教科書を持っていません

約2人に1人(42%)が教科書を共有しており、その内訳は「2人で1冊」が23%、「3人以上で1冊」が19%にも上ります。さらに7%の児童は教科書自体を持っていない状況です。自分専用の教科書を持つ児童はわずか52%しかおらず、この割合は2019年の92%から大幅に低下しました。わずか数年で教科書の入手可能性がほぼ半減したことになり、報告書もフィリピンの教科書不足の深刻さを指摘しています。

東南アジアの他国と比較すると、フィリピンの教科書普及率の遅れは一目瞭然です。例えばミャンマーとベトナムでは全ての小5児童が一人一冊の教科書を持ち、マレーシアは99%、カンボジア96%、ラオスでも84%が自分専用の教科書を所持しています。これら近隣諸国と比べ、フィリピンは東南アジアで最下位の普及率にとどまっています。

教科書不足の先にある「学習の危機」

教科書不足はフィリピンの教育課題の一端に過ぎません。根底には、教育への長年の投資不足やインフラ・人員の不足といった構造的問題があります。こうした問題は子どもたちの学習成果に深刻な影響を及ぼしています。

まず、学力面の危機として指摘されるのが「学習の貧困(Learning Poverty)」です世界銀行(World Bank)の報告によれば、フィリピンでは10歳の児童の約9割(90%以上)が、自分の年齢相応の文章を読んで理解することができないとされています。この数値は日本やシンガポールなど先進国の3~4%と比べても突出して高く、フィリピンの子どもたちの多くが基礎的読解力を身につけられないまま成長している現実を示しています

「読み書きができないまま大人になる子どもが多数いる」という事態は、その子どもたちの将来の学習や就労機会を大きく制限し、貧困の連鎖を固定化させる危険性があります。実際、新型コロナウイルス禍以前からフィリピンの児童の読解力・数学力は低迷しており、2018年のPISA国際学力調査でも読解力が参加国中最下位、水準以下の児童の割合が非常に高いことが問題視されていました。

さらに2020~2022年にかけて世界最長級の約2年間に及ぶ学校閉鎖を経験したことで状況はさらに悪化しました。長引く遠隔授業や休校により学習の機会が奪われたことで、「学習の貧困」は一層深刻化したと懸念されています。

ひとつの教室50人!?

フィリピンでは慢性的な教室不足により、1つの教室に50~70人もの生徒が詰め込まれる過密学級が各地で見られます。教育省の推計では全国で約16万5千教室が不足しているとされ、その原因は長年にわたる政府資金の不足や調達の遅れ、生徒数の増加によるものです。

実際、2022年にようやく全国の学校が対面授業を再開した際も、教室不足のために1日を二部制・三部制に分けて授業を行わざるを得ない学校が約1,000校に上ったと報告されています。教室だけではなく、机や椅子、水道設備に至るまで基本的なインフラが不足している学校も珍しくありません。

例えば、新学期の開始時期には全国で2,760万人の生徒を迎えましたが、その現場には「教室、学習教材、椅子、机、水、そして教員が不足している」と教師団体が訴えています。これでは子どもたちが安心して学べる環境とは言えず、学習意欲や集中力にも影響を及ぼすでしょう。

教員は「足りない」のではなく、「配置されていない」

フィリピンの初等教育では、教員不足が深刻な課題として語られています。しかし実態を見ると、この問題は単純に「教員の数が足りない」ことによって生じているわけではありません。フィリピンでは毎年、多くの教員資格保持者が国家試験(LET)に合格しています。それにもかかわらず、公立校の現場では慢性的な教員不足が続いています。

その背景には、公立校教員の採用制度があります。公立校の正規教員は、新たに配置されるのではなく、退職や異動によって生じた欠員を補充する形で採用されるのが原則です。そのため、教員資格を取得しても正規採用までに数年待機するケースが少なくありません。この待機期間中、多くの資格保持者は低賃金で不安定な非正規教員として働くか、教育分野を離れるか、海外就労を選択することになります。結果として、「資格はあるが教壇に立てない」人材が増え、学校現場では人手不足が常態化しています。

さらに、公立校で働く教員の労働環境も、定着を難しくしています。多くの学校では一クラス50人を超える過密学級が当たり前で、教科書や教材も十分に行き渡っていません。授業以外にも、事務作業や行政対応、災害時の避難所運営など、教育以外の業務負担が大きく、教員が「教えること」に集中できない状況が続いています。こうした環境は、教員の疲弊や離職を加速させています。

特に深刻なのが、校長や副校長、ヘッドティーチャーといった管理職層の海外流出です。これらの教員は、授業の質を保ち、若手教員を育て、学校全体をまとめる重要な役割を担っています。しかし、英語力と経験を持つ管理職教員は、海外やインターナショナルスクールでより良い条件を得ることができ、国内にとどまるインセンティブが弱くなっています。その結果、学校運営の継続性が失われ、教育の質が長期的に低下していくという悪循環が生まれています。

一方で、都市部の一部私立校やインターナショナルスクールでは、少人数制の授業や充実した教材、高給与による教員確保が実現しています。こうした学校に教育資源が集中する一方で、最も支援を必要とする貧困層の子どもたちは、教員や教材が不足した公立校で学ばざるを得ません。ここには、明確な「教育資源の逆分配」が存在しています。

このように、フィリピンの教員不足は人数の問題ではなく、制度と構造の問題です。この構造を変えない限り、教室や教科書を増やすだけでは教育の質は改善しません。だからこそ今、学校だけに任せるのではなく、学校の外から学びを支える取り組みが、これまで以上に重要になっているのです。


現場の声:4,200人の子どもたちを支える学校の実情

今回インタビューを行ったTALAMBAN小学校は、現在約4,200人の児童を抱えるマンモス校で、教員数は約120人にのぼります。それでもなお、教室・教員・教材の不足は日常的な課題となっています。

校長によれば、教科書不足は依然として深刻であり、実際の教室では3人、時には4人で1冊の教科書を共有しながら授業を行うことも珍しくないといいます。本来であれば、児童一人ひとりが教科書を手に取り、自分のペースで学習を進めるべきですが、現場ではその前提が成り立っていません。

さらに問題を複雑にしているのが、カリキュラム変更と教科書供給のずれです。フィリピンでは教育改革の一環としてカリキュラムが見直されることがありますが、新しいカリキュラムに対応した教科書が、必ずしも速やかに学校現場へ届くとは限りません。その結果、教科書がないまま授業を進めざるを得ない期間が生じることもあり、教員は限られた資料や口頭説明に頼って授業を行っています。

近年、ワークシートや補助教材をインターネット上からダウンロードできる環境は整いつつあります。校長によれば、現場の教員たちはそれらの教材を活用し、授業の質を保とうと努力しています。しかし、その印刷にかかるコストは十分に確保されておらず、多くの場合、教員が自己負担で印刷を行っているのが実情です。教材がデジタル化されたとしても、それを実際に子どもたちの手元に届けるための紙やインク、印刷費用が不足していれば、教育環境の改善にはつながりません。

校長は、「現場の教員は、与えられた条件の中で最大限の努力をしている」と前置きした上で、制度と現実の間にあるギャップの大きさを強調していました。教科書が足りず、教材費も十分でない中で、4,200人もの子どもたちの学びを支えることは、個々の教員の献身だけでは限界があるといいます。

この学校の状況は、決して例外ではありません。むしろ、フィリピン各地の公立校が直面している課題を、最も分かりやすく可視化した一例だと言えるでしょう。

DAREDEMO HEROによる学習支援~子どもたちへの希望の架け橋~

DAREDEMO HERO(誰でもヒーロー)が目指しているのは、経済状況や家庭環境に左右されることなく、すべての子どもたちが「学ぶ機会を当たり前に持てる社会」を実現することです。

フィリピンでは、教科書不足や家庭内に学習環境がないことから、家で宿題ができない子どもたちが少なくありません。DAREDEMO HEROの活動の大きな特徴は、そうした子どもたちに寄り添い、学校の外にもう一つの安全な学びの場を用意している点にあります。

その取り組みの一つが、教科書や学習教材の無償提供と共有です。教科書を家に持ち帰れない、あるいはそもそも教科書を持っていない子どもたちのために、主要教科の教科書の控えを学習センターに常設し、放課後や週末に自由に使える環境を整えています。教科書の有無が学力に直結すると指摘されているフィリピンにおいて、これは子どもたちの学習機会を守るために欠かせない支援です。

また、放課後には学習センターを開放し、教員資格を持つスタッフが常駐して宿題や復習を個別にサポートしています。学校の授業で理解できなかった内容を質問したり、一緒に宿題に取り組んだりすることで、家庭で十分な学習支援を受けられない子どもたちも、少しずつ遅れを取り戻すことができます。教員不足や過密学級によって、一人ひとりに目が届きにくい学校現場を補完する役割を果たしています。

さらに、平日の補習に加えて、週末や長期休暇中には特別授業やリメディアル(学力補充)クラスを実施しています。読解力に課題を抱える子どもには基礎的な読み書きの練習を、算数が苦手な子どもにはレベルに合わせたドリルや遊びを取り入れた授業を行い、通常の授業についていけずに取り残されてしまう子どもを一人でも減らすことを目指しています。

こうした日常的な学習支援に加え、DAREDEMO HEROは非常時にも学びを止めない取り組みを行っています。9月末に発生したセブ沖地震では、校舎が損傷し、授業が継続できなくなった学校もありました。私たちはそうした学校に仮設テントを設置し、子どもたちが学び続けられる空間を確保しました。災害時、生活の立て直しが優先される中で、学びは後回しにされがちです。しかし、日常を取り戻すためにも、子どもたちにとって「学べる場所」があることは大きな支えになります。

これらの活動を通じて、DAREDEMO HEROは、公教育だけでは埋めきれない隙間を補い、子どもたちの学びを下支えしています。教科書や教材を自由に使える環境、そして寄り添ってくれる大人の存在は、子どもたちに安心感と学ぶ意欲を与えています。

学ぶことが当たり前ではない現実の中で、学びをあきらめなくていい場所をつくること。それが、DAREDEMO HEROの教育支援の根幹です。

未来を担う子どもたちのために

フィリピンの教育現場が抱える教科書不足や学力低下の問題は、日本で暮らす私たちにとって、日常からは見えにくい現実かもしれません。しかし、この記事で見てきたように、教科書が足りないこと、教員が十分に配置されないこと、学ぶ環境そのものが整っていないことは、子どもたちの努力だけでは決して乗り越えられない構造的な課題です。そしてそれは、フィリピンだけの特殊な問題ではなく、教育へのアクセスと質をどう保障するのかという、人類共通の課題でもあります。

基礎教育は、貧困から抜け出し、自らの人生を切り拓いていくための最も重要な土台です。読み書きができること、学ぶ習慣が身につくこと、分からないことを「分からない」と言える場所があること。そうした当たり前の積み重ねが、子どもたちの将来の選択肢を大きく広げていきます。だからこそ、子ども一人ひとりの「学ぶ権利」が保障されることは、何よりも優先されるべきことです。

残念ながら、フィリピンではその権利が今なお十分に守られていない子どもたちが大勢います。学校だけでは支えきれない現実がある中で、DAREDEMO HEROのような草の根の取り組みや、日本からの継続的な支援が果たす役割は決して小さくありません。活動の規模は限られているかもしれませんが、支援を受けた子どもたちにとっては、教科書一冊、机一つ、そして寄り添ってくれる大人との出会いが、人生の方向を変えるほどの意味を持ちます。

フィリピンの子どもたちが、安心して学べる日常を取り戻し、自分の将来に夢と希望を描けるようになるまで。私たちは、遠くから見守る存在ではなく、同じ時代を生きる仲間として、共に歩み続けたいと考えています。その一歩一歩が、「誰でもヒーローになれる」というDAREDEMO HEROの理念を、現実のものにしていくのではないでしょうか。

参考文献・出典:

参考文献・出典:
本記事は、Rappler(2025年12月12日付)、UNICEF、世界銀行、フィリピン教育省(DepEd)等が公表している報告書および現地報道をもとに執筆しました。この記事を通じて、一人でも多くの方にフィリピンの教育問題と支援の必要性が伝われば幸いです。

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