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アフターコロナ フィリピンの教育事情

アフターコロナ フィリピンの教育事情
公開日:

2020年3月から対面授業が全面禁止され、2年半以上の学校閉鎖から、ようやく授業が再開されたフィリピン。学校のシステムは?授業の様子は?徹底調査しました!

コロナ感染予防対策は?

アフターコロナの授業再開において、気になるのは感染予防対策です。フィリピンの公立学校では、一つの教室に40人から50人が密集していたり、数千人の生徒に対して手洗い場が1か所にしかなかったりと、感染予防が難しい環境にあります。
では、各学校はどのような対策を行っているのでしょうか?

ニューノーマル?アフターコロナのスクールライフ

現在フィリピンでは、マスクの着用は義務付けられていませんが、教室では多くの子どもたちがマスクを着用しています。対面授業再開前に問題となった「ソーシャルディスタンス」に関しては、実質的にスペースの確保が難しく、保たれていないのが現状です。

日本では、一時期「黙食」が推奨されていましたが、フィリピンではそのような動きはなく、みんなで楽しくワイワイとご飯を食べています。日本と違い給食制度がないため、子どもたちは家から持ってきたお弁当や、校内の売店で買ったご飯を食べています。昼食時間に子どもたちにご飯を届ける保護者もおり、毎日校内はさながらピクニック状態です。

校内ではマスクを着けている生徒が多いです
クラスメートとお弁当を食べる子どもたち

まだまだ足りない手洗い場

コロナ感染予防の基本は、手洗いうがいです。しかし、残念なことにフィリピンの公立学校は、日本のように手洗い場が十分に設置されていません。対面授業が始まる前に、どの学校も急ピッチで手洗い場の設置を行いましたが、中には水道施設が整っていない学校もあり、なかなか生徒全員が十分に手洗いうがいができる環境には程遠いようです。

蛇口がなく、使用ができない手洗い場

フィリピン教育の問題点

2年半以上にわたり対面授業が禁止されていた中で、常に懸念されていたことが、子どもたちの学力低下です。

対面授業が禁止されていた期間、家庭にネット環境があり、パソコン・タブレット・スマホなどのガジェットを所有している子どもたちは、オンライン授業を受けていました。しかし、それらがない貧困層の子どもたちは、学校から配布されるプリントだけを行うモジュール授業を受けてきました。

そのような環境の中で、子どもたちは対面授業と同じ学びを得ることができていたのでしょうか?

オンライン授業の問題点

日本でも一定期間、オンライン授業が行われていましたが、ほぼ100%に近い子どもたちが、授業を受けることができていたはずです。しかしフィリピンの1億1千万人のうち52.6%は、インターネットの接続が不安定な地方に住んでいます。
しかも、サイバーセキュリティ企業SurfSharkの調査によると、フィリピンのインターネットは、調査対象の79カ国の中で最も不安定で遅く、しかも最も高価であることが判明しています。

民間の世論調査会社Social Weather Stationsの調査によると、40%強の学生がオンライン授業に必要なデバイスを持っていないことが分かりました。仮にスマートフォンなど必要なデバイスを購入するには、フィリピン人の平均月収の半分以上の出費となるため、コロナ禍で購入が難しい家庭がほとんどでした。

▶参照元:Reuters
▶参照元:INQUIRER.net

モジュール授業の問題点

貧困層の子どもたちの多くが、学校から配布されるプリントで学習をするモジュール授業を受けるしかありませんでした。この方法は、周囲に勉強を教えてくれる大人がいる場合はいいのですが、そうでない場合には子どもたちがプリントだけで理解を深めることは不可能に近いものでした。

そもそも、フィリピンでは長期間、子どもの外出が禁止されていたため、学校にプリントを取りに行くのは保護者の役割でした。保護者が仕事で忙しかったり、そもそも教育に関心がない場合、子どもたちは自分たちの力で学び続けることはできません。

学力低下の実態

世界銀行は、中低所得国の10歳以下の子どものうち、簡単な文章を読むことができない人の数が、流行前の53%から70%に上昇したと推定しています。

2021年3月に発表された部門別報告書によると、昨年度第1学期の公立学校の生徒の99%が合格点を取っていることが分かりました。これは一見、素晴らしい数字のように見えますが、実際は適切な試験が行われていなかったり、保護者が解答をしていたりと、実態と大きくずれた数字になっています。

オンライン授業で、出欠を取る時のみ参加し、あとは画面をOFFにして授業を受けていなくても、配布されたプリントを保護者や兄弟が代わりに解答していても、先生は多くの業務に追われ、一人一人に対応することができませんでした。

参照:COVID-19 and the Crisis Facing Philippine Schoolchildren | Time

急増する自殺率

2021年フィリピン大学の調査によると、自殺念慮と自殺未遂を経験したことのある若者の割合、また抑うつ症状をよく感じる若者の割合が、2013年から2021年の間に倍増したと発表されました。

これは、パンデミックの長期間に及び対面授業の禁止と、外出規制などによる子どもたちの孤独が少なからず影響しています。特に、自殺企図を実行した若者の10人に6人は、周囲に相談できる人がいないと答えており、学校がないことで、子どもたちがいかに孤独を強いられてきたかが分かります。

さらに、「勉強がしたくてもできない」「ネットが繋がらずに授業に出席できない」「プリントだけでは勉強が理解できない」など、様々なプレッシャーも子どもたちを苦しめているようです。

▶参照:Pinoy youth in worse mental shape today, nationwide survey indicates | UP Population Institute (upd.edu.ph)

不足だらけの現状~教室・教員・教科書・教材~

パンデミック以前より、フィリピンの教育水準の低さは問題になっていました。日本の学校では「当たり前」にある様々なものがフィリピンの学校にはないか、もしくは不足しています。

教室不足

例えば、DAREDEMO HEROの子どもたちが通う、タランバン小学校は全校生徒数が5,000人ですが、教室は100個しかありません。そのため、授業を午前の部と午後の部に分けて行う必要があり、教員は朝6時から夜6時まで授業を続ける必要があります。

教員不足

フィリピンの公立学校では、一つの教室に50名ほどの生徒が在籍する場合があります。その場合、いくら声を張り上げても教室の後ろまで声が届きません。そのため、多くの先生は小型マイクを使って授業を行いますが、それでも騒々しい教室内では、なかなか先生の声を聞き取ることができません。

教科書・教材不足

フィリピンの公立学校では、教科書は支給されるのではなく貸出です。しかも、日本の教科書のようなカラフルなものではなく、わら半紙のような白黒の教科書で、中にはすでにページが破れているものもあります。貸出のため、教科書への書き込みは禁止です。学校によっては、一人一冊配布されず、クラスメイトとシェアしなければならない場合もあります。

さらに、学校には日本のように体育館・音楽室・理科室などの整った施設はありません。そのため、例えば家庭科のミシンの授業はミシンの絵を見て学んだり、音楽のピアノの授業はピアノの写真を見るだけなど、日本では考えられない授業が行われています。

貸出用の教科書
図書館には数十年前の本しかありません

教育における貧富の差

では、全ての子どもたちがそのような状況で学んでいるのでしょうか?

実は違います。フィリピンにも、世界的に見て高水準の教育を提供している、私立の学校がたくさんあります。しかし、そのような学校に通えるのは一部の富裕層のみです。
セブでもトップクラスの国際バカロレアプログラムを受けることができるインターナショナルスクールは、中高校の学費が年間約60万円以上です。国家統計局国際労働機関(ILO)の調べで、フィリピンの平均年収は約48万円と発表されており、この学費がいかに高いかがご理解いただけるかと思います。

しかし、そのような学校に通えば、世界水準の整った設備でハイレベルな教員の、ハイレベルな授業を受けることができます。もちろんパンデミック期間中も、オンラインで充実した授業が提供されていました。

このように、教育において「貧富の差」が大きく存在し、子どもたちの可能性や将来を大きく左右してしまうのが、フィリピンの現状です。

設備の整ったインターナショナルスクール ▶参照元:History | Cebu International School (cis.edu.ph)

日本とは少し違うフィリピンの教育システム

ここで、簡単にフィリピンの教育システムに触れておきます。

フィリピンでは、2016年からK-12(幼稚園1年+小学校6年+ハイスクール4年+シニアハイスクール2年)という新たな教育制度をスタートさせました。それまでは、10年間の基礎教育(小学校6年+高校4年)だったため、大学進学の年齢が16歳と、世界的に見ても特殊な教育システムでした。

世界基準に合わせるために必要な教育改革でしたが、実施直後には様々な弊害も生じました。突然シニアハイスクールの2年間が追加されたことで、大学進学率が一時的に低下しました。さらに、シニアハイスクールのための校舎や教員の準備が間に合わず、十分な学びを得られずに2年間を過ごした生徒もいました。

K-12もようやく軌道に乗り始めた2020年にパンデミックが始まり、またしても様々な問題が発生しています。そのひとつが、学期のスタート時期です。K-12以前は4月から5月が夏休みで、6月から新学期が始まっていました。その後、アメリカのシステムに合わせて8月スタートに調整を行っていますが、現状では学校によってバラツキがあります。

DAREDEMO HEROの存在意義

このように様々な問題を抱えた、フィリピンの教育システムの中で、なぜDAREDEMO HEROが子どもたちに教育支援を行う必要があるのか、その意義をご紹介します。

子どもたちに最低限の教育を!~ラーニングセンターの支援~

DAREDEMO HEROでは、現在セブの最貧困地区3か所でラーニングセンターを運営しています。ラーニングセンターは、コロナ禍で学習の機会を完全に失ってしまった子どもたちのために、スタートしました。

現在は、対面授業が再開されていますが、元々アルファベットすら書けなかった子どもたちが、学校の授業についていくことは容易なことではありません。以前は、学校に行っても授業を理解することができず、ただ時間が過ぎるのを待ち、何も学ぶことなく帰宅していた子どもたちも多くいます。そこには学びの喜びもなく、自然と学校への足も遠のいてしまっていました。

しかし、パンデミック中にラーニングセンターでアルファベットや簡単な計算を学んだ子どもたちは、学校が再開され、学校の授業が理解できるようになりました。同時に学びの喜びや、学びの意欲を持ち始めています。

最貧困層の子どもたちが、今の暮らしよりも少しでも衛生的で安全な暮らしを手に入れるためには、最低限の英語力と道徳が必要です。ラーニングセンターでは、学校が再開された今も、子どもたちに生きる力を身に付けさせています。

▶ラーニングセンターについて詳細は「こちら」をご覧ください。

貧富の差を超えた、未来のリーダー育成~奨学生の支援~

先にも述べたように、フィリピンでは

富裕層はハイレベルな教育を受けて、さらに豊かに。
貧困層は十分な教育を受けることができず、貧困のまま。

このような状況が今も強く残っています。この構造を変革し、全ての子どもたちに平等な機会を提供するためには、この国のシステムから変えていく必要があります。

DAREDEMO HEROでは、やる気と志、さらに能力のある子どもたちを選抜し、富裕層と同等の高水準な教育の機会を提供することで、この国の未来を変えるリーダーを育成しています。

▶奨学生の支援について詳細は「こちら」をご覧ください。

DAREDEMO HEROが目指す未来

DAREDEMO HEROでは、「すべての子どもたちが夢と希望を持ち、努力が正当に報われる社会を実現する」ことをミッションに掲げています。

現状のフィリピンでは、残念なことに貧困層がいくら努力をしても、自分の夢を叶えるどころか大学に行くことすらできません。このような現実が存在する社会では、子どもたちが夢と希望を持ち続けることは非常に難しく、貧困層は自分の夢を諦めて、現実を受け入れて大人になるしかありません。

一人でも多くの子どもたちが希望を持って努力を続け、それぞれの夢を実現できるように、私たちは活動を続けています。そして、彼らが各分野で少しずつこの国を変革し、最終的には全ての子どもたちに平等な機会が与えられる、そんな社会を実現していきます!

私たちと一緒に、子どもたちの夢を応援してくださるサポーターを募集しています!

ヘポドロモ小学校 校長先生からの応援メッセージ

DAREDEMO HE ROの活動をご支援ください!

月1000円でラーニングセンターに通う子ども一人の1か月分の軽食を提供や、30人の子どもたちに炊出しができます。