2022年から3年間、 味の素ファウンデーション様の助成を受けて行ってきた、フィリピン人の食に関する実態調査及び、栄養改善事業が無事終了しました。
▶これまでの活動は以下のリンクをご覧ください。
・プロジェクトの経緯
・実態調査について
・国際カンファレンスについて
・受益者の拡大に向けた活動
・最終年度を迎えて
3年間で生じた受益者の「変化」
当事業の前身となる事業も含め、DAREDEMO HEROではこれまで4年間継続的に貧困地区の栄養改善事業を行ってきました。コロナ禍で、その日食べるものにも困る多くの貧困層を目の当たりにし、ただ食料を配布し続けても、根本的な問題は解決しないと感じて始めたこの栄養改善事業ですが、長期的に継続的な関わりを持つことで、貧困層の意識は少しずつ変わり始めています。

まず、私たちが驚いたことは、これまで貧困層には「栄養バランスが取れた食事をしたほうが良い」という概念がなかったことです。私たちにとっては当たり前の感覚が、決して当たり前ではないという所から、この事業はスタートしています。
それに付随して、塩分の強い食べ物、油もの、甘いものは取り過ぎないほうが良いなど、基本的なことから丁寧に伝えていく必要あがりました。その際、ただ「ダメ」と言っても伝わるはずがありません。しっかりとその理由と、それによってもたらさられる不利益(健康被害や子どもの成長阻害)も伝えていく必要があります。
さらに、知識として知ることと、実践に移すことには大きな乖離がありました。いくら理想的な栄養バランスを知ったところで、経済的要因、調理環境などの物理的な要因によって、理想の食事に近づけることが難しいことを痛感しました。だからといって、諦めるのではなく、根気強く現地の人々と「実現可能な改善策」を模索し続けました。


その中で少しずつではありますが、人々の意識が変わり、行動が変わる場面を見ることができました。
地域保健の担い手(ヘルスワーカー)の変化
変わったのは受益者だけではありません。フィリピンではバランガイ(最小自治区)が地域を統括しており、各バランガイには保健分野を担うヘルスワーカーや栄養指導員が配置されています。しかしながら、彼らは栄養について専門的に学んだ人材ではなく、数時間の講習を受けた地域のお母さん方です。彼らがいくら地域のために何かをしたいと思っても、必要な知識を十分には備えていませんでした。
当事業では、3年間継続的にヘルスワーカーや栄養指導員への教育も行ってきました。初めは消極的で、自信がなさそうだった彼女らも、3年間の事業に参加することによって、必要な知識を得て、自信を持って地域の人々に指導ができる人材になりました。


美味しく食べるには健康な歯が必要
当事業では、食事調査や栄養指導だけでなく、口腔衛生の向上にも取り組みました。もともと貧困層の多くが歯磨きを習慣化しておらず、非常に状態の悪い虫歯を多く抱えていました。そのため、歯が痛くてご飯が美味しく食べられなかったり、若くして歯を失ってしまったため、硬いものが食べられなかったりと、日々の食事にも大きな影響を与えていました。
そのため、3年間地道に歯磨き指導と最低限の治療を続けることで、受益者とその家族の虫歯が改善し、「ご飯が美味しく感じるようになった」「歯が痛くなくなって勉強に集中ができるようになった」など、嬉しい声をたくさん聞くことができました。


今後の活動~フードカードの普及~
助成金事業は3年間で終了となりますが、DAREDEMO HEROでは引き続き貧困層の栄養改善に取り組んでいきます。3年間の調査や聞き取りで痛感したことは、基本的な知識の不足です。また、大人になってから食生活を改善することは、容易なことではないということです。
そこで、今後は食品カードを使って、小学校低学年からの基礎的な栄養教育に力を入れていきたいと考えています。フィリピンの小学校では、栄養に関する授業を行うカリキュラムは組まれていますが、実際に専門性を持って教えることができる教員がほとんどいません。また、日本と違って教科書も含め教材が充実しておらず、子どもたちが栄養に関して楽しく学べる手段がありません。
そこで、今回の事業の集大成として、フィリピン料理に特化した食品カードを作成し、調査によって明らかとなった過不足の激しい栄養素に着目をした栄養素を表記したカードを作成しました。このカードがあれば、まだ字が読めない子どもたちも、写真や色で、栄養のバランスや食べ物の主たる栄養素を理解することができます。


このカードを全国の小学校に普及させていくことが、今後の目標です!
難しいだけで不可能ではない
今回私たちがこの事業を通じて学んだことは、大人の意識や行動を変えることは「難しいことではあるけれども不可能ではない」ということです。正直、初めは「セミナーに参加すれば何かもらえる」という動機で参加していた受益者が多かったと思います。そこから、少しずつ「学ぶため」「家族の健康のため」に参加する受益者が増えていきました。
さらに、お金をかけずに少しでも健康的な食事をとるために、モリンガ(フィリピンでどこにでも自生しているスーパーフード)をインスタントラーメンや缶詰に入れてみたり、気持ちだけ調理時の塩の量を減らしてみたりと、様々な工夫が見られるようになりました。そして、それを嬉しそうに私たちスタッフに話してくれる受益者の姿を見て、この事業をやってよかった!と思うと同時に、絶対に続けていきたい!という意気込みにもつながっています。
これからもDAREDEMO HEROでは貧困層の栄養改善を通じて、貧困層の健康を守っていきます!

